はじめに
講道館では柔道普及振興事業の一環として、「講道館柔道・投技」のビデオ教材を、NHKサービスセンターの制作協力を得て完成し、1990年1月より販売。さらに、書籍「講道館投技」は、連続写真による投技解説の決定版として、上、中、下の三巻の編集にて1999年7月に発売されました。このインターネット上の連載はそのダイジェスト版です。(この書籍は2012年に絶版になりました。)
ビデオ「投技」の冒頭に、
講道館柔道の投技は、67本あります。このビデオは、各技ごとに基本から応用技まで、また、似たような技の違いや、試合で禁止されている技などをわかりやすく解説し、投技の分類と名称を正しく普及することがねらいです。
と、この内容を紹介しています。
このコーナーは、ビデオの映像に対応して、ビデオと同じ投技65本を活字と写真で解説した書籍、講道館投技の中から、ダイジェスト版として紹介するものです。
この解説は、投技の理合や攻防の試合技術を深く掘り下げ、競技力の向上を目指そうとしたものではなく、あくまでも試合や乱取に展開される多種多様な投技の"分類と技名称"を正確に把握することを"ねらい"としたものです。
柔道が世界的な発展を遂げてきた今日、競技柔道においてはこれまで見られなかったような技が多く見られるようになってきています。現在、講道館『技研究部』においてもこれらの問題に取り組んでいますが、このコーナーを通じて世界中の柔道愛好家が、技の"分類と技名称"について真剣に考える機会を持たれることを期待しています。
投技には、次の三つの分類があります。
乱取や試合で許されている投技
関節を利用した投技
当身技を利用した投技
このうち、2・3については"形"として稽古しますが、これから述べる投技は、1.の自由に攻防できる"乱取技"です。
投技の歴史的変遷を見ると、明治28年に、講道館は投技指導段階の指針として、「五教の技」42本を制定しました。その後、投技の変遷があって改編の必要を生じ、大正9年、新たに「五教の技」40本を発表しました。その内容は、旧「五教の技」から8本の技が除かれ、新しく6本の技が加えられました。この時点で、投技は新・旧合わせて48本となり、その後「五教の技」は改編されていません。
講道館では、昭和29年7月、『技研究部』(「形研究部門」「投技研究部門」「固技研究部門」の三部門)を設置しました。「技研究部門」では、近来、新しい投技が、乱取に多く用いられるようになってきたため、「投技の新名称を決める」問題を採り上げて検討し、昭和57年10月、17本の「新名称の投技」を決定しました。
先の48本にこの17本が追加されて、明治15年、講道館が創始されて以来、総数は65本となりました。この投技には、審判規定の改正で、今では、試合で禁止されている技(河津掛)、また、技の効果が認められなくなった技(抱上等)も含まれています。その後平成9年に2本が追加され総数は67本になりました。
現在、試合に展開されるすべての投技は、その理合によって技名称が判断され、この67本の技のいずれかが「決技(きまりわざ)」となります。しかし、実際には、技は複雑、多様化され、とりわけ投技の場合、瞬間に技の名称を判断することが困難となりつつあります。
この解説を始めるにあたり、「分類と技名称」の判断については、『講道館技研究部会』の「投技の新名称を決める研究会」、及びビデオ制作の際に問題点として検討した統一見解を参考にしました。ただし、一部については、研究部会で検討する機会がなかったため、筆者の個人的な見解による解説の部分のあることをご承知おき願います。